シナリオライター・小林教が思ったてきとーなことを書くてきとーなブログです。
by kyo_kobayashi
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ストーカー、始めました。 第7話

どうも、小林です。

『ストーカー、始めました。』第7話をお送りします。
まだどれも読んだことがない人は、第1話から読んでいただけると嬉しいです。
『ストーカー、始めました。』を読むには、右のカテゴリの『ストーカー、始めました。』から。

第7話を読むには、下の「More」をクリックしてください。







「こんにちは、柳下さん」
「こ、こんにちは……」
「どうぞ、上がってください」
「は、はい。お邪魔します」
 翌日、俺は少女漫画と電源タップ型の盗聴器を持って、鈴原さんの部屋を訪れた。
 彼女の部屋は綺麗に整頓されていて、俺の部屋と同じ間取りとは思えないくらいだった。
 小さなテーブルがあり、その前に彼女が腰を下ろしたので俺もそれに倣う。
「これ、借りていた漫画です」
 紙袋に入れていた少女漫画を、テーブルの上に並べて置いていく。
「どうでしたか、この漫画は?」
「思ったよりも面白かったです」
 今まで少女漫画なんて読んでこなかったけど、結構面白いものなんだと知った。読まず嫌いしていたのが、もったいないと思ったくらいだ。
「そう言ってもらえて良かったです」
 自分が褒められたみたいに喜び、テーブルに置かれた漫画を本棚に並べていった。
 本棚を見てみると、色々な本が並んでいた。漫画から小説、写真集に法律の本まである。
「ずいぶんと本を読むんですね」
「あぁ、はい。将来、何が役に立つか分かりませんから、今から色々なものに手を出しているんです」
「将来って?」
 鈴原さんは俺とは違って、ちゃんとした企業に就職している。しかも、そこは大企業といって差し支えない。
 何か夢でもあるのだろうか?
「私、今の会社で満足したくないんです。会社を興すか、弁護士になりたいって思ってるんです」
「すごいですね」
「ありがとうございます。……ただ、どちらにしようか迷ってるんです。柳下さんは、どちらが良いと思います?」
「え、そうですねぇ……」
 起業か弁護士。
 どちらも俺とは縁遠いものすぎて現実味がない。あえてどちらかを勧めるのだとしたら、
「弁護士、ですかね」
弁護士の方だなと思った。
「どうしてですか?」
「うーん、そんなに深い理由はないんですけど……弁護士の方がカッコ良いかなと思ったんです」
「カッコ良い?」
「はい。弁護士になった鈴原さんを想像したら、なんかカッコ良いなって思って。あ、女性にカッコ良いなんて、おかしいですよね……」
「いえ、そんなことないです。嬉しいです」
 俺の言葉を反芻するように、少し下へ視線を向けながら、ぶつぶつと何事かを呟いている。
 そして顔を上げると、晴れやかな表情で俺に宣言する。
「私、決めました。弁護士を目指すことにします」
「え、そんな簡単に決めちゃっていいんですかっ?」
「はいっ。私、頑張りますね」
「は、はい……」
 俺のあんな言葉だけで、将来のことを決めてしまうなんて……。なんか鈴原さんって、大物って感じがする……。
「それじゃそろそろ、お昼ご飯の支度をしますね」
「あ、はい。ごちそうになります」
「少しだけ待っていてください」
 そう言って立ち上がると、台所へと移動する鈴原さん。
「…………」
 俺は彼女の後ろ姿をひとしきり眺めると、部屋の中を舐め回すように凝視する。
 部屋の中は、白を基調とした家具が多かった。目の前にあるテーブルは白だし、小さなタンスも白で、ノートパソコンも白だ。白が好きなのかもしれないな。
 鈴原さんの様子をちらちらと確認しながら、盗聴器を差すコンセントを探す。俺の部屋と同じ作りなので、そこは容易に見つかった。
 偶然にも、コンセントに取り付けられていたのは、俺が持って来ていた電源タップ型の盗聴器と同じ形だ。これを交換すれば良いのだが、この電源タップは外しても大丈夫かを確認しなくてはいけない。
 電源タップには、プラグが二つ差してあった。プラグから伸びている線を目で追っていくと、一つは照明器具に繋がっていた。こっちは抜いても大丈夫だな。もう一つの方は、ノートパソコンに繋がっていた。電源が入っていなければ、こちらも抜いて大丈夫なはずだ。
 一度、台所にいる鈴原さんの様子を見る。こちらに背中を向けているし、料理に集中しているようなので、今なら何をしてもバレることはないだろう。
 ノートパソコンはコンセントには繋がっているが、電源は落とされている。充電を示すランプもついていない。これなら、抜いても大丈夫だ。
「ふぅぅ……」
 気持ちを落ち着けるように、長い息を吐く。ポケットから盗聴器を出す。やばい、手が震えている。こんなにも緊張するとは、自分でも思っていなかった。あまり時間をかけてもいられない。鈴原さんがなんの料理を作っているか分からないが、ものによってはすぐに出来上がってしまう。
 色々な覚悟を決めた俺は、コンセントに差してあった電源タップを外す。次に持って来た盗聴器をセットし、先ほど外した電源タップから照明器具とノートパソコンのプラグを抜き、すぐに盗聴器に差そうとする……のだが、早くしなくちゃいけないと思えば思うほど手元が狂い、なかなか差すことが出来ない。
 震えを抑え込むように両手で一つのプラグを持ち、慎重に電源タップ型の盗聴器に差す。ふぅぅ、ようやく一つ差せた。あと一つ差せば、盗聴器のセットは終わる。
「柳下さん」
「は、はひっ」
 あともう少しで終わるというところで名前を呼ばれ、そのことに驚いてしまった俺は、声を裏返らせながら返事をした。
 返事は出来たのに身体が固まってしまったかのように動いてくれない。なんとか首だけ動かして鈴原さんの方を向く。
 奇跡的にも彼女は俺のことを見ていなかった。料理をしながら、俺に声をかけてきたようだ。
「な、なんですか?」
「もうほとんど作り終わってから言うのもおかしいんですけど、嫌いな食べ物って何かありますか?」
「え、えっと……ピーマンが、ちょっと苦手です」
「よかった。それならちゃんと味わって食べてもらえますね」
 つまり、今作っている料理にピーマンは入っていないということか。それは安心だ。子どもっぽいかもしれないが、あの苦さが俺はダメなのだ。小さく刻んであれば食べられるんだけど……って、今はそんなことを考えている場合じゃないっ!
 俺は作業を急いだ。
 声をかけられたのが逆によかったらしく、そこからはスムーズに作業を進められた。
 残ったもう一つのプラグを差し、盗聴器が仕掛けられた電源タップをコンセントに差す。
 ――よし、これでこの部屋の音が聞ける。
 やることをやり終えると、疲れがドッと身体を襲う。元々コンセントに差してあった電源タップを、のろのろとした仕草でポケットに入れた。テーブルの前で腰を落ち着けると同時に、台所から鈴原さんが移動してきた。結構ギリギリだったな。
「お待たせしました」
 だらけていた姿勢を慌てて正し、背中をピンッと伸ばす。
 彼女と一緒にやって来たのは、パスタとサラダだ。パスタからは温かな湯気と良い匂いが立ち上り、俺の食欲をそそる。
「どうぞ、召し上がってください」
「あ、はい。それじゃ、いただきます」
 胸の前で手を合わせると、早速鈴原さんが作ってくれたパスタを口に入れていく。
「あ……美味い……」
「よかったぁ」
 俺がパスタを口に入れるのを待っていたらしく、彼女はまだ自分の分に手をつけず、俺の様子を見ていた。
 こちらに微笑みを見せると、鈴原さんもフォークを手に取りパスタを食べる。
「うん」
 と、満足そうに頷いた。パスタの出来にご満悦のようだ。
 適当に雑談をしながら、俺たちはパスタとサラダを食べていく。鈴原さんとの会話を楽しみつつも、俺は先ほど仕掛けた盗聴器が気になっていた。ついつい目がそちらの方を向いてしまう。
 盗聴器を仕掛けたことがバレないだろうか。同じ型の電源タップだと思ったが、もしかしたら何か差違があって、不審に思われないだろうか。もしも盗聴器が仕掛けられたことを知ったら、俺が真っ先に疑われるんじゃないか。
 ……などなど、心配の種は尽きなかった。心配事が多すぎるせいか、最初は美味しいと思っていたパスタも、今は何故か味がしない。緊張や心配による極度のストレスが、味覚を一時的に麻痺させたのかもしれない。 
「ごちそうさまでした」
 昼食を食べ終えると、美味しいものを食べさせてもらったお礼を言った。……まぁ、途中で味が分かんなくなってしまったが。
 あまり長居しても悪いし、挙動不審な姿を見られて怪しまれても困るので、俺は早々に部屋を出て行くことにした。盗聴器の具合も確認したいしね。
「今日はごちそうさまでした」
 紙袋に貸していた漫画を詰め込み、それを持って玄関で改めてお礼を言った。
「あのくらいは大したことありません。将来のために必要なことですから」
「……それは、弁護士になる夢とは違う将来の話ですか?」
「ふふっ、そういうことになりますね」
「…………」
 鈴原さんは俺の質問に対して、恥ずかしそうに答えてくれた。
 彼女は俺の質問に答えてくれただけなのに、俺はイライラとしていた。
 こんな感情はおかしい。鈴原さんは何も悪くないのだから、マイナスの気持ちを抱くなんておかしなことだ。
「…………」
 それは分かっているのに、どうしてこんなにも心がざわつくのだろう?
 頭を振ってそんな気持ちをどこかに捨てようとした。
「えっと……それじゃ、俺は帰りますね」
「はい。よかったら、また来てくださいね」
「……はい」
 嬉しいような苦いような、そんな曖昧な表情で返事をしてしまった。今はこんな表情しかすることが出来なかった。
 鈴原さんの部屋を後にすると、俺はすぐさま自分の部屋に入る。
「ふぅぅ……」
 深い息を一つ吐くと、身体を弛緩させていく。やはり彼女のような美人と一緒にいると、緊張のせいで疲れてしまう。一緒にいること自体は嬉しいんだけどさ。
 部屋に上がると、盗聴器の音を受ける受信機の前に行く。
 何故かその前で正座をする。弛緩させていた身体に、再び力が自然と入った。
 指を震わせながら、俺は受信機のスイッチを押した。
『……カチャカチャ……ジャー……カチャカチャ……』
 雑音、ではない。何かをしている音だ。音が少し遠い。
 何の音かはまだ分からないが、とにかく正常に動いているということに安心した。
 聞き耳を立て、想像力を働かせていく。今、彼女が何をしているのかを、音だけで判断しなくちゃいけない。
 本当は隠しカメラを置ければいいんだけど、あの整頓された部屋に仕掛けることは難しいだろう。プロのストーカー(そんなのがいてもイヤだが……)なら、きっと隠しカメラを仕掛けることも可能だろう。
 しかし、悲しいことに俺は素人。そこまでの能力は持ち合わせていない。だから俺は、盗聴器で我慢するしかないのだ。
 それにしても、この音はなんだろう? 『ジャー』という音は、水道の音かもしれない。だとしたら『カチャカチャ』という音は……食器が当たる音、だろうか?
 この二つの音から察するに、おそらく彼女は洗い物をしている。
『カチャカチャ……ジャー……カチャカチャ……』
 そう考えて聞いてみると、それ以外に考えられないと思った。先ほど昼食を食べ終えたばかりなので、タイミングから見ても間違いなさそうだな。
 音が遠いと感じたのは、盗聴器を仕掛けたコンセントと台所が少し離れているからだ。
 だが、これだけ聞こえていれば充分だろう。これなら、盗聴器のそばでした音は、確実に聞こえるということだからな。
 やがて洗い物を終えたのか、受信機からは何も聞こえてこない。
 僅かな音でも聞き漏らすまいとして、食いつくように受信機へ耳をくっつける。
 すると、ふすまを開けるような音がする。
 受信機から顔を離すと、後ろへ振り向く。そこにはふすまがあった。そこを開けると、物置兼クローゼットとしての空間が姿を現す。きっと鈴原さんは、そこのふすまを開けたのだ。
 何か音がするだろうと思って聞き耳を立てていると、
『くすくすっ♪』
笑い声が聞こえた。
 なんで彼女が笑っているのかまでは分からない。これが、盗聴器の限界だ。
 テレビやラジオの音が聞こえるわけではない。いや、聞こえないのはヘッドフォンを装着しているからかもしれない。
 彼女が笑っているのはテレビやラジオのせいかもしれないし、雑誌や漫画を読んでいるせいかもしれない。
 どれも想像の域を出ないものばかりだ。だが……、
「なんか、楽しいな」
と思っていた。
 人の生活を覗く(見てなくて聞いているだけだが)のが、すごく楽しかった。その相手が、鈴原さんだというのも楽しい理由の一つだ。

 ……その日はずっと、受信機に耳を傾け続けていた。彼女の生活について、これといって特筆すべきことはなかった。
 しいてあげるとすれば、独り言が多かったような気はした。まぁ、独り言が多くなってしまうのは、一人暮らしをすればもれなく付いてくる特典のようなものだ。俺も気づいたら独り言を言っているしな。

 週が明けて月曜日。
 目覚まし時計のうるさい音で起きると、ふらふらとしながらも受信機の前まで移動する。
 スイッチを入れると、部屋の中を動き回るような音がした。
 昨日は朝からバイトがあり、帰ってきたのは夜遅く。なので昨日は、ほとんど鈴原さんの部屋の様子を聞くことが出来なかった。
 録音が出来ればいいのだが……さすがにそれは無茶というものか。
 起きたばかりなのでまだ頭が働いていないが、鈴原さんは朝の準備のために動いているということくらいは分かった。
『チンッ! ……熱っ』
 どうやらオーブントースターで何かを焼いたみたいだ。続いて『ザッ……ザッ……』という音がした。今が朝ということを考えると、食パンにバターかマーガリンを塗っているといったところか。盗聴器の近くの音だと、そんな音まで拾えるらしい。
「鈴原さんの朝食は食パンか。俺と一緒だな」
 偶然の一致に、なんだか嬉しくなってしまう。さて、いつまでも盗み聞きをしていてはバイトに遅れてしまう。さっさと準備をしよう。
 食パンをトースターで焼き、ベーコンエッグを適当に作った。
 急いで食い終えると、盗聴器が拾った音を聞きながらバイトへ行く準備をする。
 今日は頃合いを見計らって部屋を出て、鈴原さんと一緒に駅前まで行こうと決めていた。
 せっかく彼女の行動をある程度把握することが出来たのだから、有効に使わないともったいないからな。
「え……」
 受信機から、布が擦れ合うような衣擦れ音が聞こえた。
 ――こ、これは、もしかして……着替え中?
 あ、やばい。鈴原さんが着替え中かもしれないと考えたら、変にテンションが上がってきてしまった。
 朝から変な気分になってしまいそうだったので、一時的に受信機のスイッチを切ることにした。たとえスイッチを切っても、対象は隣の部屋だ。受信機から何も聞こえてこない間に出かけようとしても、扉が開く音ぐらいは普通にしていても聞ける。
 受信機のスイッチを入れたい気持ちをぐっと抑えながら十分ほど待つと、隣の部屋から扉が開く音が聞こえた。
 既に出かける準備だけは出来ていたので、持つものを持つと玄関へと急ぐ。履き古したスニーカーを引っかけながら、俺はドアを開け放った。
「きゃっ!?」
「おわっ!?」
 ドアを開けると、すぐ目の前に鈴原さんの姿があった。
 お互いに驚いてしまい、短い声を上げた。
 彼女が部屋を出たばかりだということは分かっていたつもりだったけど、こんなに近くにいるとは思っていなかった。
「す、すみませんっ。大丈夫ですかっ?」
 とにかく謝らなければいけないと思い、謝罪の言葉をかける。
「あ、はい、大丈夫です。柳下さんの方こそ平気ですか?」
「だ、大丈夫です。ちょっと慌てて出てきてしまっただけですから」
「もしかして、バイトに遅れそうなんですか?」
「い、いや、そんなことはないんですけど……」
「それなら今日も、一緒に駅前まで行きませんか?」
「は、はい、喜んでっ」
「うふふっ♪」
 俺の反応が可笑しかったらしく、可愛らしい笑い声が聞こえた。自分の部屋に鍵をかけると、「行きましょう」と言って駅前に向かって歩き出したのだった。



続きは↓からどうぞ。
ストーカー、始めました。 第8話
[PR]
by kyo_kobayashi | 2011-08-08 03:35 | ストーカー、始めました。

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